SAISON express

取材こぼれ話

ノスタルジックな風情が漂う
サン・マルタン運河

パリ北東部のウルク運河とセーヌ川を結ぶサン・マルタン運河は、ナポレオン時代の1825年、パリに飲料水を供給する目的で造られた。プラタナスの木陰が続く運河沿いにはセーヌ河岸とは違った下町風情が漂い、過去には著名な映画のロケ地として使われたことでも有名だ。例えば、『アトランタ号』（ジャン・ヴィゴ監督/1934年）にはこの運河の光景が映し出され、『アメリ』（ジャン・ピエール・ジュネ監督/2001年）では、主人公が橋の上で石切り遊びを楽しむシーンが登場する。また、マルセル・カルネ監督の『北ホテル』（1938年）のモデルとなった「北ホテル」は、現在、運河を間近に望むお洒落なレストランとして人気が高い。界隈には、小さな書店やギャラリー、カフェ、雑貨店などが建ち並び、学生や家族連れが思い思いに時を過ごす姿が目立つ。パリに暮らす人々のゆったりとした日常に触れ、船が太鼓橋を潜っていく様子を眺めていると、時間さえもゆっくり流れていくようだ。上流のラ・ヴィレット貯水池からバスティーユ広場近くのアルスナル港まで約5㎞、途中9か所で水位調整のための水門を経て、約2時間30分かけて進むサン・マルタン運河クルーズは、岸辺の風景をのんびり楽しみたい方にお勧め。

取材こぼれ話

アメリカから贈られた友好の証
パリの自由の女神

自由の女神といえばアメリカのシンボルだが、パリにも自由の女神像が立っていることをご存じだろうか。場所はセーヌ川、ビル・アケム橋とグルネル橋の間に浮かぶ人工の細長い中の島「イル・デ・シーニュ/白鳥の小径」。元は19世紀に造られた堤防で、街路樹が連なる約1㎞の遊歩道の西端に、ニューヨークの1/7にあたる高さ11.5mの自由の女神像が立っている。ニューヨークの女神像は、1886年にアメリカ独立100周年を祝い、フランスから贈呈されたもの。1878年のパリ万博では、制作途中の巨大な頭部が展示されて話題になったそうだ。一方、フランス革命100周年記念として開催された1889年のパリ万博に際し、アメリカから友好の証としてお返しに贈られたのがこのミニチュアの女神像だ。こちらの像は、フランス革命のきっかけとなったバスティーユ牢獄襲撃の日付が刻まれたプレートを持ち、はるかニューヨークの方向を見つめて佇んでいる。小径を歩み、近くまで行っても、下から見上げるばかりでなかなか顔を合わせることができないが、セーヌ川クルーズの船からは、エッフェル塔を背に女神像が堂々と佇む光景を楽しめる。

取材こぼれ話

凱旋門とは呼べない現代風アーチ
新凱旋門「グランド・アルシュ」

シャンゼリゼ大通りの西端、シャルル・ド・ゴール広場にどっしり構える「エトワール凱旋門」は、パリの顔と呼ぶにふさわしく、誰もがあの雄姿を思い浮かべるだろう。しかし、凱旋門とは戦勝を記念して造られる門全般のことを言い、パリにはほかに3つの凱旋門が存在する。その一つ、ルーブル美術館西方の「カルーゼル凱旋門」は、エトワール凱旋門と同様、ナポレオンの勝利を祝して造られたもの。ほかに、ルイ14世の戦勝を記念して建造された「サン・ドニ門」と「サン・マルタン門」も、フランスの歴史を今に伝える凱旋門だ。そしてもう一つ、パリの西に位置する副都心ラ・デファンスの街に、凱旋門の定義から外れるにもかかわらず「新凱旋門」と呼ばれるスタイリッシュなアーチがある。「グランド・アルシュ」（大きな門）という名称のアーチ型デザインの高層ビルは、1989年7月、フランス革命200周年を記念して建てられ、当初はサミットの会場として使われた。場所は、カルーゼル凱旋門からコンコルド広場、エトワール凱旋門を一直線に結ぶ延長線上にあり、高さは110m。総ガラス張りのエレベーターで35階の展望台に昇ると、眼下に広がるパリ市街のパノラマが素晴らしい。また、グランド・アルシュの周辺には65にも及ぶ現代アートが展示され、パリの中心部とは趣の異なる美の世界に引き込まれそうだ。